売上アップ策のメカニズム

今がわかるリアル新常識 クイズ トップ企業の頭脳に挑戦! (ナガオカ文庫)

今がわかるリアル新常識 クイズ トップ企業の頭脳に挑戦! (ナガオカ文庫)

上記の本はいろんな企業の面白いアイデアを集めた本ですが、その中でも面白い事例に次のようなものがありました。

2000年、香川県で誕生したうどんのチェーン店「はなまるうどん」。現在は吉野家グループの一角で、全国に300店舗以上を構えています。同店では、宣伝費をかけずに最大の宣伝効果を発揮する方法として、2006年から先着順で「あるキャンペーン」を行っています。「うどん●●券」なるものを発行して割引サービスをするというもので、この企画はネーミングのインパクトも相まって、固定客を増やすことに成功しています。では、そのアイデアとは何でしょう?

正解は一ヶ月限定の「うどん定期券」を、500円で販売するというもの。
定期券を提示した客は、うどんの各メニューが105円引きで購入できるというもので、たった5回で元が取れるお得感満載な企画。
この企画の秀逸な点は、単なる割引・値引ではなく、パブリシティ効果(口コミ含む)が期待できる点です。「物が売れない→割引・値引」は、マイナス分を補うほどの客数増が見込めず、結果的に収支が悪化しますそのためにチラシやCMをやればもっと悪化する)。その点、この企画は広告宣伝費も少ない上に、(延べ)客数増が見込めるのです。

さて、この手の企画を立てる際、ポイントは定期券をいくらにするか、ということとメリットをいくらにするか(結果的には同じことを検討することになりますが)ということです。
当然ながらここは顧客動向の分析がベースになるでしょうが、俗にいうRFM分析(R=Recency,直近来店日、F=Frequency, 来店頻度、M=Money, 購入金額)でいうところの「F」、来店頻度です。飲食の場合、「ストマックシェア」という考え方があります。人が食べられる量は限られていて、消費者はお腹が減ったとき、必ずしもレストラン同士を比較しません。よって外食、中食の垣根を越えた競争に勝つことが必要だという考え方です。つまり、限られたストマックシェアを奪わないと、客数増が達成できないことになります。はなまるうどんが5回で元が取れる価格設定にしたということは、それまでの同うどん店の来店頻度は常連でも月5回を少し下回るレベルなのでしょう(週1回以下)。
一方、割引額を105円にしたのは、売上分解式「売上=客数×客単価」で、平均客単価に注目をし、分析をした結果だと思われます。それにしても同店の「かけうどん小」は販売価格なら105円なので、定期券を買えば無料で1ヶ月食べ放題になる…。
いずれにせよ、この手の販促企画ネタは、センセーショナルでありながら実を残す(売上をアップさせる)というバランスが勝負なわけで、当然ながら思いつき「だけ」でやると火傷するか、まったく効果がないかとなります。
ちなみに元ネタとなる交通機関の定期券の割引率は、だいたい30〜40%程度、元祖のJRが一番高く、1ヶ月通勤定期でも約50%、6ヶ月定期なら約60%になります。
このはなまるうどんの定期券キャンペーン、結果の数値情報はわかりませんが、大好評だったようです。しかし2011年は発行されず、今年はポンパレというクーポン共同購入サイトでの発売のみとなり(ただし価格は500円から200円へ値下げ)、以前はどこでもOKだったのが今年は12店舗のみ利用可の限定となってしまったようです。このあたりは何か計算外の事象が2010年に起きたのか、より戦略的に定期券を使おうとしたのか、何か事情がありそうです。