事業型NPOにまつわるアレコレ。1ヶ月ぶりの更新です(^^;

5/26に、福岡県からの委託で事業型NPO育成事業に取り組む一般社団法人SINKaが主催する「ビジネスプランプレゼンテーション」に出席してきました。私も昨年から少し同事業に関係して、セミナーやコンサルティングをさせてもらっていることもあり、現在新たに社会的事業に取り組もうとしているアントレプレナー(起業家)の方々のプレゼンを見学しました。
個別の発表内容についてはふれませんが、非常に面白いプランが並んでいました。その一方で講評者が指摘されたような課題を私も同様に感じました。これは、日本における事業型NPOの課題として共通のものであると思われます。
講評者の方々から指摘されたポイントは大きく分けて次の3点。


1.やろうとしている事業はNPOでなくてはならないのか?株式会社でもいいのではないか?
2.既存の類似事業や企業とどう差別化を図るのか?
3.継続性を保つための収支構造をどう設計するか?


1.やろうとしている事業はNPOでないといけないのか?
そもそも、NPOとは非営利活動法人と呼ばれますが、要は株式会社と異なり、株主への配当がないだけの話で(ある要件を満たして認定NPOとなれば税制優遇や寄付金控除を受けられますが)、別に儲けちゃいけないわけではないのです。儲けた分を事業に再投資し、より質の高い事業を展開せよ、という話で、これもまあよくよく考えれば株式会社とさほど変わらない。事業内容も極端にいえば何でもありで、NPOの事業領域として設定されている17種類のどれにでも少しでも関係があればいいわけです。だから何が「公益」・「善」かはメンバーが考えているだけで、正しいかどうかは実は誰にもわからないですし、それも構わないのです。たとえば「種としてのゴギブリを保存する」でも「演歌を消滅から救う」でも何でもいいのです。

(2009年12月31日現在:複数回答 出典:内閣府ホームページ)

「事業型NPO」とは、社会の課題を事業を行うことで解決しようとするNPOであり、NPOの資金調達のために収益事業を行ない、活動の運営資金に充当していた従来のNPOよりも、もっと積極的に「事業」をとらえています。近年事業型NPOが注目される背景には、グラミン銀行の設立で知られるムハマド・ユヌスの影響があるでしょう。

NPOが必要とされる背景には、一般に次の3つの切り口で説明されています。

1.「市場の失敗」…市場メカニズムが働きにくい分野(ex.海外援助活動)
2.「政府に対する比較優位性」…政府は市場の失敗をすべてカバーできない(ex.教育)
3.「多数派・権力者への異議、代替提案」…少数派の意見・利害の代弁(ex.アドボカシー)

1.は、要は「金にならない・なりにくい」「金の話にすると問題が多い」といった事業領域。2.は本来1.のようなものは政府なり自治体なりがやるべきなんですが、予算はないし、それよりも民間に任せた方が良いような事業領域。3.はマイノリティーの存在意義を知らしめる社会化とでもいうような事業領域。
つまり、この手の事業は税金や企業活動ではカバーしにくいニッチな事業領域といえるもので、そう考えると、「事業型NPO」という言葉自体はもともと矛盾を孕んでいるといえます。ゆえに「事業型」を目指せば目指すほど、実はNPOである必要性は薄れてきます。
NPOを事業体として選択する理由の第一は功利的ではありますが、社会性を謳うのに株式会社よりも適しているからだと思います。それならば「事業の評価(何がどうなったらミッションを果たしているといえるのか)」と「情報公開(実際、活動において成果が上がっているか)」をきちんと行うことがカギでしょう。


2.既存の類似事業や企業とどう差別化を図るのか?
NPOの事業でわりとポピュラーなのが、教育・介護・障がい者などのテーマです。これらは公教育や社会保障制度の中で既に確固たるものが存在します。もちろんそれだけでは足りない面が多々あるので、既存の民間事業者も多く参入しています。つまり、こういった事業領域を主とするNPOは、公的制度や民間の営利事業者と競争しなければなりません。
ここでも矛盾があるのは、競争しなければならないような事業領域には参入せず、それらからも漏れてしまうような領域が本来NPOが担うべきところになるのですが、結局、これも収益を得て持続させようとすれば「事業型」を目指すことになり、必然的に競争市場に入っていかないといけない、といった矛盾があるのです。
いずれにせよ、カギとなるのは「マーケティングでしょう。


3.継続性を保つための収支構造をどう設計するか?
というわけで、事業型NPOの肝は前述の1.2.を考えた上で、収支構造のモデルを確立し、持続性をどう保つかにあります。もちろん事業内容によっては、解決しようとしている社会問題が解消すれば、NPOとしては解散して良いわけですが、持続していかないといけない事業も当然あります。
いずれにせよ、この収支構造を設計する=ビジネスモデルを作ることができないければ、賛同者から金を集めることは出来ません。

この上図は、一般的な非営利組織の収益モデルを示したものです。
まず一つには国や自治体などからの助成・補助金があります。が、これはNPOのメリットである自由な活動が制限される面がある上、書類作成などの管理コストがかかるものが多いのが現実です。また、「行政の下請け」的にていよく丸投げされて使われているだけのこともありますし、政府・自治体トップや担当者が代わると、財源そのものがストップすることもあります。各種財団や企業からの助成や寄付も同様の問題点を持っています。。ただし、スタートアップの段階では貴重な財源がまとまって入る上、ノウハウ蓄積や組織体制を整備できる点では大きなメリットがあります。
一方、NPOの活動に賛同する会員や寄付者、ボランティアからの会費・寄付ですが、欧米の場合、企業からの寄付も含め、これが実質的にNPOを支える収益源になっています。しかし日本の場合は寄付税制がお粗末なのに加え、欧米のような寄付文化がない(日本人が薄情というわけではない)ため、この部分の収益比率が小さいNPOがほとんどでしょう。
最後にサービスの受け手からの利用料・収入ですが、前述のNPOの存在意義から考えると、サービス対価を当の本人から得るのはそもそもムリがあります。
最近はファンドレイジングといった資金調達のあり方がいろいろと検討・実施され、ネットからによるクラウドファンドレイジングなども事例としては出ていますが、過渡期といえる状況です。
よって、「事業型NPO」というものの、自立できる事業をモデル化するのは、欧米以上に難しい面があると思われますが、欧米のように寄付に過度に依存できない(依存しようがない)ことを考えれば、矛盾を含むようでも事業型を目指さざるを得ないのが日本のNPOの現実です。フリーミアム戦略のように、一部の利用者が費用をカバーする、サービスの受け手以外の第三者が費用をカバーするといったモデルの検討も必要でしょう。
「サービスの提供」と「お金の流れ」を図式化し、そのビジネスモデル(仮説)の正しさを検証とするといった、もっともビジネス的なスキルが要求されます。
この本あたりはモデル構築の上で非常に参考になるかも。

ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書

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事業型というより、目的達成のために金もかけずにやる!流行のICT(情報技術)にも依存せずにやる!という点では、富士宮やきそばの事例が参考になります。
ヤ・キ・ソ・バ・イ・ブ・ル―面白くて役に立つまちづくりの聖書 (静新新書)

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社会起業家にみる問題点
ただ、これらの問題点というのは、確かにNPO独特の課題もあるものの、一般のビジネスでもスタートアップの段階では同じような課題を抱えるものです。NPOの場合は、それらよりも次に示すように、より本質的な問題が3点あるように思われます(注:以下は今回発表された方々個別の問題というわけではありません。一般論です)。

そもそもNPOをやろうというような方々は、だいたいが社会的使命感に燃え、それゆえに金のことを考えるのを「汚らしい」といった感覚を持つ場合が多いようです(「結果的に金がついてくる」という考え方が強すぎる)。すると必然的に、収益モデルを作ることや、営業活動をすることに対する嫌悪感を持ってしまいます。先に触れたように、本来第三者から「金を出してもらう」ことを考えてもらわねばならないはずなのに、むしろそこに注力をしない。近年はこういったソーシャルビジネスへのベンチャーキャピタルやファンド、ハンズオフといった動きも増えているだけに、信頼性の高いビジネスモデル(仮説として精度の高い)の構築とプレゼンテーション能力社会起業家にとって必須のスキルでしょう。

加えて、「自分はこれだけ社会にとって良いことをやっているんだ」という独善性がハナについたり、無礼な態度に出るということも見られます。「こんなに頑張っているのに、なんで世間はわかってくれないんだ、世間はバカだ」と思ってしまう気持ちはわかりますが、これでは本末転倒です。ある社会起業家と話をしたサービス利用候補者は、「あの手の人々は『正しすぎて』疲れる」とこぼしていたという話があります。災害時のボランティアの方々にも見られる現象ですが、「自分は正しい」というのを全面に出しすぎると、こういった逆転現象が起きます。確かに情熱・ミッションは絶対に社会起業家には必要ですが、すべての人が同じ考えを持っているわけではないことを肝に銘じるべきです。

3つ目に、NPOに携わる方々は、意外にも他のNPOや同業者との協働を避ける傾向にあります。NPOの機動力、事業スピードは、他者との協働でドライヴがかかります。自身の事業に思いが強すぎるのか、何かと自身のNPO内で自己完結しようとする傾向が見られますが、組織化の一つとして、リソースの外部調達(特に営業面・後方作業面)はぜひとも考えて欲しい視点です。

日本のNPOの厳しい現状は以下のようなデータで示されます。NPOをやろうと考える方々、私も含めたNPOを支えようとする方々はこの現実が前述のような問題点にあることをご理解いただければと思います。