「会社で苦手なこと」ランキング

リーダーシップや企画発想力、交渉力など、ビジネスパーソンにはさまざまな能力が必要とされます。社会に出てから、学生のころには気付かなかった“苦手分野”に気付いたという人もいるのではないでしょうか。935名の社会人に、会社で苦手なことは何か聞いてみました。Q. 会社で苦手なことは何ですか?(複数回答)
1位 企画発想 31.70%
2位 ごますり 29.10%
3位 プレゼン 28.80%
4位 リーダーシップ 27.20%
5位 交渉力 23.30%

マイコミフレッシャーズ http://freshers.mycom.co.jp/senpai/gap/2011/01/6_1.html

このランキングを見て、なるほどなぁと思うことしきり。私自身はこの手の事柄を苦手とは感じていませんが(上から目線ではなく、講師・コンサルタントなので当たり前のことですが)、一般のビジネスパーソンが苦手だと感じるのはよくわかります。
共通点はずばり、「一般法則がない」ことと「右脳的働きが最終的に必要」であること。いいかえれば「教育によって能力開発することが難しい」分野だということです。確かにちまたには「企画力」「プレゼンテーション」「リーダーシップ」「交渉力」に関する教育研修は多い(さすがに「ごますり」はないなぁ)のですが、講師によって教える内容(「教え方」ではない)が本当にバラバラ・多様的で、かつ属人的なものになっています。ということは、その分野の一般的な教育内容が「使える」場面が限定的で、広く使える場面をカバーしようとすると、無理があるということ。
たとえば「企画発想」は左脳的な収束思考(フレームワークを使った思考、代表的なものにロジックツリーやKJ法)と右脳的な拡散思考(思いつきを広げる思考、代表的なものにブレーンストーミングマインドマップ)があり、斬新なブレークスルーをもたらすのは後者の手法。だけれどもその手の手法を使ったからといって確実に斬新なアイデアが出るかどうかは別問題。そもそも発想とは既存の知識・情報の組み合わせが基本なので、情報リテラシーもセットでやらないと無意味かも。
「プレゼンテーション」にしても、目的によってフォーマットからデザイン、ストーリー、言語的コミュニケーションのやり方まで多様性がどんどん広がります。実際、この分野は近年でも新しい手法が開発されており、よく知られているものでは「A4・1枚にまとめる」簡略化・理解促進を目指すものや、ガー・レイノルズ「プレゼンテーションZen」に代表されるデザイン重視・記憶定着を目指すもの、スティーヴ・ジョブスのような演劇性・感動を呼び起こさせる総合芸術的なものなど、百花繚乱の様相を呈しています。
「リーダーシップ」に至っては従来からもっと「何でもアリ」状態で、そもそもリーダーシップの定義自体が時代によって変化してきた背景もあって、実際の教育ではいまだに古臭い「マネジリアル・グリッド」や「PM理論」を使っているものもあれば、長く使われている「SL(状況対応)理論」(断っておきますが、これらの理論がまったく無効化しているというわけではありません。業界や仕事の特性によっては十分に使える面もあります)、コーチングあたりにも影響を与えていると思われる「タイプ(コンティジェンシー理論的)別」(これは私は実務で使うには無理があると思いますが)があり、最近では「変革型」「EQ型」「ファシリテーション型」(cf.HRインスティチュートによる分類)というようにより状況想定を限定して効果を上げることを狙うものまで細分化されています。
「交渉力」は最も現在必要性が高まっている分野で、古くは「ハーバード式」、営業ノウハウから蓄積された「営業話法(セールス話法や応酬話法など)」、最近では心理学やカウンセリング技術からのアプローチや弁護士、国際関係・外交面からの技術アプローチと、基本的な部分はリーダーシップと異なりさほど違いはないものの、より複雑さ・緻密さを増している感があります。加えて「コンフリクト・マネジメント(紛争解決)」や「クレーム対応」といったより具体的な場面想定のもとでの交渉といったものもあります。
要は、これらを上手くやった事例や理論にしても、あまりに前提条件や変数が多すぎて一般化できにくいということが教育研修業界の課題に直結しているといえます。そのせいかどうかわかりませんが、この手の分野は経営学でもあまり扱われることがない(リーダーシップは例外ですが)ものでもあります。
となると、これらの能力開発においては、教育企画担当者としては極力使用場面や前提条件を明確に設定し、絞り込んだ形で研修会社などにオーダーする必要があるでしょう。「とりあえず『発想法』でも」「『リーダーシップ』が弱いので」といった漠然としたオーダーは研修会社のパッケージ型コンテンツでお茶を濁して終わり、になりかねません。ご注意を!