医療・福祉TQMが増えています

先週から鹿児島・佐賀・北九州・福岡とずーっと医療・福祉の現場での研修をしています。
しかもいずれも業務改善系のテーマで、TQM(Total Quality Management,総合的品質管理)の導入に関するものです。よく知られているように、TQMは現場の職員による品質管理として、QCサークル活動を主体に進められるものです。2006年4月以降、こういった案件が増えているのも、やはり制度改正の影響があってのことでしょう。
国(厚生労働省)は要は「金は出さんが、質は上げろよ、コラァ」みたいなことを言ってるわけで、一見矛盾するこのリクエストですが、日本の製造業はこれを地道な現場の活動でクリアしていったわけです。
日本の医療・福祉施設は、サービス業の中でもきわめて高い顧客(患者・利用者)意識を持った人材が集まっていますが、業務改善というよりそれを精神的な力技で何とかしようとしてきました。しかし、制度上収益の上限がある事業である以上、コスト削減・時間短縮・安全性確保といった問題を「効率よく」改善する必要性があります。そこでTQM・QCというわけ。

QC研修では、写真のように特性要因図をはじめ、層別・パレート図連関図・マトリクス・系統図といったQC手法を中心に学習し、実際に業務改善活動をしてもらいますが、副次的な効果も多くあります。
年明けからは県内の8病院、来年からは埼玉県の病院・佐賀県福祉施設でもTQM導入のお手伝いを予定していますが、単に業務改善を目指しているわけではなく、「業務改善を通じた人材育成」を目指しています。
とまあそういうわけで、ご興味がある医療・福祉施設はご連絡ください(ここまでは宣伝です)。


さて、このような病院・福祉施設の動向は、前述の通り制度改正が大きな要因ですが、今回の改正のインパクトおよび今後の動きの中では医療の方が危機感が先行しているように思います。10/28号の東洋経済が100ページにもわたる病院をめぐる特集を組んでいますが、ビジネス雑誌が数年前には考えられなかった現象です。
(参照)http://www.toyokeizai.co.jp/mag/toyo/2006/1028/index.html
これは東洋経済の入魂の特集となっており、医療関係者は必読だと思ったのですが、ここ1週間でこれを読んでいた人が1人しかいなかったのはショックでもありました。やはりまだまだ「経営」に対する関心が薄いのでしょうか。このままでは記事にも出ていた亀田総合病院・聖路加病院などのいわゆる「ブランド病院」や、経営の概念をきっちり入れている練馬総合病院との差はどんどん開いてしまうように思います。


病院経営をめぐる書籍では、ここ数年はバランスド・スコア・カード(BSC)や在院日数短縮のためのクリニカル・パス(パス法)、人事制度構築などが中心でした。個人的な意見ですが、このうち、現在のタイミングで人事制度を扱うのは抵抗があります。かつてバブル期以降の企業で成果主義人事制度の導入が大流行しましたが、失敗事例が目立ちました。これは制度・運用の問題というより、「人件費圧縮」の意図が見透かされたタイミングの問題の方が大きかったように思います。
全体のマネジメント・システムを再構築する前に人事制度だけを扱うのは極めて危険です。現在の病院施設は赤字倒産よりも労務倒産の危険性のほうが高いことを認識すべきではないかと思います。「だからこそ人事制度改革」というロジックも確かに成り立ちますが、なかなかそっちのロジックは今のタイミングでは共感を得ることが難しいと思います。


病院・福祉施設経営をめぐる今後の戦略については、私論もあるものの、制度を熟知しているわけでもない私が差し出がましく提案できるものはありません。ただボトムアップ(人材育成)の視点からはお手伝いできることもあろうかと思います。TQMはそのひとつ。関係者の方々はご検討されてはいかがでしょうか。