介護職員処遇改善交付金のキャリアパス要件・定量的要件

介護職員処遇改善交付金は、9月までに介護職のキャリアパスを設計し、賃金や処遇、研修実施などをやらないと減算されます。この制度そのものについての考察はまた別途に行いますが、以下はこれに関するツィッターでのつぶやきです。
・「介護職員処遇改善交付金キャリアパス要件・定量的要件について」関係者と意見交換。人事系コンサルがビジネスチャンスととらえているようですが、はっきりいって制度構築をコンサルに依頼するメリットはあまりないかと。
・ というもの、今回のこの施策、厚労省の意図として、介護職員処遇改善交付金を継続取得して欲しいというのが第一にあって、制度やシステム設計の要件はかなり緩い。コンサルに依頼するまでもなく、キャリアパスや人事考課制度に関する本を読んで自前で作るので十分。
・私もコンサルだから皮肉なんだけれど、そもそも完璧なキャリアパスも含めた人事制度なんてありゃあしないんだから、人事制度の本にあるようなテンプレートでも使って、それに沿って自施設にカスタマイズすれば十分。このことでコンサルに金落とすくらいなら、労務管理教育や能力向上、給与の原資に充てた方が良い。
・設計実務のポイントは次の点。介護施設の特徴として、?雇用形態が多様、?組織規模の差が大きい、?定常業務と非定常業務の線引が微妙、といったところだけ配慮すればいい。どうせ厚労省がこれから出してくるであろう先行事例がそのまま一般的なフレームワークになるはずはないし。
・唯一、コンサルに任せるべき分野といえば「賃金制度の設計」のみ。これだけは賃金プロット、想定離職率、インフレ率なども勘案しながら設計しないと、総額人件費がガンガン上がる破目になりかねないし、専用ソフトがないと賃金プロットやシミュレーションに莫大な作業量が発生するため。
・よって、会計・税務事務所が賃金規程コンサルを手掛けるのは理にかなっているし、依頼ニーズも高いと思う。キャリアパスや人事考課、職能等級制度なんぞは介護施設レベルの規模と事業内容なら、コンサルに依頼せず自前でやるべし。
・しかし、この介護職員処遇改善交付金はおいおい介護報酬にシフトさせる方向性らしいので、一連のキャリアパス離職率改善や品質向上にリンクしなければ厚労省にとっても意味がないので、そこから先はコンサルの出番になるかもしれない。
・もう1点重要なポイント。キャリアパス構築や賃金制度の整備に交付金・介護報酬が原資とされるとしても、その結果である離職率改善による定期昇給増分を想定していない。ゆえにどうせ人件費原資の問題が再発するにきまっている。
・要はこれまで政府がやってきた介護報酬3%増、1人あたり月1.5万円アップの交付金というのは現在の職員構成による人件費原資に過ぎないから、人件費増減の将来予測の精度がカギとなる。そういう背景を考えると離職率が低けりゃいい、というわけではない。
・だってね、現在は「採用・教育コスト>離職コスト」だから、離職率を下げるべきというロジックになるんだけれど、離職率が低いレベルになった場合、「採用コスト<離職コスト」になる。つまり、キャリアの長い高年収職員は辞めてもらった方がいいというロジックも成り立つ。
・これは現在の公務員制度改革と同じ図式。
・給料が上がる分、付加価値・生産性が高まらないと「採用コスト>離職コスト」にならないんだけれども、介護事業の労働集約的性格や大幅な生産性改善は見込めない、さらには施設収益に上限があることを考えると、財源を根本的に変えるか、社福・医療法人の非課税収益事業の範囲を拡大する原資確保するかでないと。
・産業ごとの離職率の違いは、事業構造による収益率(コスト率)の違いとイコールなんで、単に離職率が低くて定着率が高い職場が良い、というのは浅薄な判断。CS・ESが高い企業でもそこそこの離職率の高さがある事例は枚挙に暇がない(米ノードストロームなんぞ典型)。

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・要は「だれにとっても良い職場」なんぞ幻想ということ。むしろまともな経営をしているところこそ、合わない社員は自然とフェードアウト・淘汰していく仕組み(不満を抱えずに)が出来ている。