百貨店が大変…って今に始まったことじゃなし

無事熊本に着きました。やれやれ。
さて、なかなか暇がなくて読めなかった東洋経済の特集を電車の中で読みました。

週刊 東洋経済 2009年 1/24号 [雑誌]

週刊 東洋経済 2009年 1/24号 [雑誌]

私はもともと百貨店出身。仕事自体はいまだに大好きで、サラリーマンになるならまた百貨店に行きたいくらいなんですが、この景気でかなり危機的な状況になってきたようです。昨年末から増床・リモデル・出店計画が軒並み中止、12月の百貨店売上高は昨年比9.4%減で、これは調査の始まった1965年以降、最悪の下げ幅だそう。百貨店はもともと景気の先行指標にされるほど景気には敏感に反応する業種なので、むべなるかなといった感じではあるのですが、思い出してみればバブル崩壊以後も同じような状況はあったわけで、その間に百貨店という業態がドラマチックに変わったか、イノベーションを起こして今日まで生き延びてきたか、というとまったくなし。
そもそも百貨店は「構造不況業種」認定されてかれこれ20年以上経つわけで、愛着があるとはいえ、これだけ変化に対応できていない(M&Aも異常にペースが遅い)となると擁護が難しい面もあります。百貨店の構造不況とは、一般に以下のような要素をいいます。

  1. 立地が大都会となり、建物も豪奢であることから、固定資産税(賃貸なら地代家賃)・減価償却費が高くつく
  2. スーパーと違い、人的販売が中心のため、人件費率(労働分配率)が高い
  3. 商品価格が高いものを少量多品種発注を行うため、仕入金額・物流コストが高くつく
  4. 実は自主買取の高利益率の商品は比率的にも少ないため、高価格商品にも関わらず粗利益率が低い
  5. 百貨店の高品質イメージから宣伝媒体・広告なども高コストになりやすい
  6. 定期的なリモデル費用が発生(スーパーブランドなどは百貨店が費用負担する)、しかもその効果は年々持続がしにくくなている

上記のような特徴から、固定費を抑える、あるいは変動費化する過程で、販売員がメーカーからの派遣店員になり、買取商品比率はどんどん落ちて消化仕入(売れた分だけ仕入れが立つ)というようなことを常態化していったため、販売力も商品開発力も在庫管理能力も落ちて行き、百貨店は単なる場所貸し業としかいえなくなりました。旧態依然としたイベント催事に、品ぞろえもどの店にいってもそう変わらない。だから客が来なくなる…という悪循環(デパ地下ブームは品揃えにおいて差別化していたからこそ起こった現象でしょう)。
かつて百貨店の営業戦略スタッフだった頃、ぞっとするデータをよく見たものです。当時、私の勤めていた百貨店は一応鉄道とリンクしたターミナル百貨店だったのですが、それでもカードホルダーの購買履歴分析をしてみると、50%以上が年1〜2回の利用、1回あたりの滞留時間は30分以下でした。
つまり、もう私がいた10年以上前から、百貨店は顧客離れが続いており、「いろいろあるけれど買うものがない」としかいいようのない顧客行動を示していました。
もちろん百貨店もそんなことはわかっていましたし、いろいろな手を打って試行錯誤していたのは事実ですが、大きな変革は今日まで起きていないのです。伊勢丹が一応業界内の勝ち組とされてきましたが、それも北海道の丸井今井などの例を見る限り現在はかなり微妙になっていますし、新宿の伊勢丹本店が、日本橋三越高島屋、池袋の東武・西武といったそれぞれの旗艦店と比べてそれほど競争優位性があったのかというと正直わかりません。
さて、東洋経済の特集では主として百貨店業界の動向をM&Aによるグループ再編の中で分析しています。逆にいえば、それくらいしか大きな動きがないというわけでもありますが、これについても非常に疑問があります。規模の経済性が働きにくい、エリア特性による購買行動の差が非常に大きい百貨店という業態では、この意義がよくわからない。シナジー(相乗効果)の出る面がわからない。記事を読んでもそのあたりが見えてこない。せいぜい店舗のスクラップ&ビルドがやりやすいため、財務体質が改善すること、店舗数が増えることから人材のキャリアパスが多様化し、経験知が上がるくらいしかメリットが感じられないのですが。少なくとも品揃え(MD)や強みなどの補完関係でシナジーが発揮できるとは到底思えません。
私も既に業界から離れて10数年経つので、私の認識が間違っているかもしれませんが、外から見える&記事からみえるレベルでの情報を総合してロジックを組み立ててみても、かなり厳しいと思います。百貨店の経営・競争戦略をどう考えるかは、またそのうち書いてみたいと思います。