医療コスト抑制に悩む各国

日経新聞の連載記事で「蘇れ医療」というのがあり、海外の事例に学ぶという視点で様々な紹介記事がありましたが、あまりに日本と制度的・社会的(文化成熟度といってもいい)背景に違いがあるので、役に立たないなと思っていたのですが、最終回の記事はちょっと興味をそそりました。概略は以下の通り。

日本同様、混合診療(公的診療と自費診療を併用した制度)を認めていないイギリスで、昨年八月、費用対効果の小さい腎臓がんに対する4つの抗がん剤について、公的医療制度(NHS)の対象から外すと指針を出した。ただし国民から反発があり、混合診療の基準を設ける方針に転換。

アメリカでは高齢者や低所得層向けの公的保険などで治療実績に応じて診療報酬を加減する「ペイ・フォー・パフォーマンス(P4P)」を試行。過剰競争を避けながら質の向上を狙った施策だが、06年のデータでは薬剤費の支出が3割も増えている。

要は海外でもコスト抑制策に苦労しているということですが、日本の場合、記事で杏林大教授の島崎修氏の指摘するように、(1)自由で容易な受診(フリーアクセス)・(2)質の高い医療(これは一重に医師を始めとする現場の努力の結果であるとともに、低く抑えられてきた医療費との相対的な評価でもある)・(3)安い医療費(国民健康保険制度)という矛盾しかねない3要件について、「日本はある程度満足させてきたが、限界に来ている」のが現状です。その要因の一つは人口構成の変化(世界トップクラスの高齢化スピードと人口減)です。

記事では千葉県がんセンターで5割しかなかった手術室の稼働率を上げて月平均で1億の収入増をもたらした例がありましたが、こういうマネジメントの取組の必要性は確かに重要です。しかし国にとって総コスト上昇をコントロールしつつ、ソフトランディングさせることは個々の病院のマネジメント努力とは別個で必要になっています。

あえて暴論ですが、国の経済性便益から考えれば、高齢者や低所得者への公的医療扶助は小さなものといえるかもしれません。しかし長期的に見れば、やはりこういったセーフティーネットがあることで社会の活性化がもたらされるわけで、このあたりも派遣労働者問題と共通するものがあります。語弊がありますが「一見ムダに見えるものであっても大きな意味を持つ」のが特に社会福祉政策なのでしょう。