「介護崩壊」

週刊エコノミスト7/17号で、「介護崩壊」と題した特集が組まれていました。久々に同誌を買いましたが、論点の整理のみならず具体的な提言まで掲載されているところはさすが。なかなか読み応え有りました。
例のコムスンの件は、同社の問題に矮小化されているきらいがありましたが、さすがは本特集では制度上の構造的な問題が指摘され、その延長上にコムスンの問題があることが理解できるようになっています。「福祉で儲けるなんてとんでもない」と主張するそれこそトンデモな方こそ読んでいただきたい(こういう人に限って、「じゃあ税方式による公営化にしましょう」というとまた反対するんでしょうね)。

記事からいくつか重要な指摘をピックアップ(要約)してみました。

介護業界の低賃金構造(施設介護職で年間260〜350万円、訪問ヘルパーは200万円以下、全産業平均は456万円)の原因は4つある。

  1. 介護報酬が低すぎ、黒字が作れない制度になっている。よって人件費に割けない
  2. 介護・福祉分野は医療・看護分野に比較して体系化された学問になっておらず、専門性が乏しいとみられている
  3. 介護などの福祉分野では「儲けてはならない」という社会的意識が強い
  4. 介護の世界には医師会などの圧力団体が存在しない

葛原 豊氏(アイレップ・シニアマーケティング事業部)

個人的には特に最後の圧力団体の問題が大きいと考えています。日本医師会日本看護協会のような強い組織化された団体がなく、全国社会福祉協議会にせよ全国老人福祉施設協議会にせよ、非常に政治的活動については弱いのが現実。霞が関や国会に程近いところにいずれも事務所があるにもかかわらず、力が強く感じられないのが現状です。

介護報酬の見直しは水準引き下げだけでなく、決定プロセスにも問題がある。
国による事業者へのアンケート調査により実態調査を行い介護報酬を決定しているが、回答者の主観によって回答がかなりブレるような設問になっている。
また介護報酬の最大の欠点は、サービスの「質」が算定基準に反映されないことである。

川端 明氏(介護サービスアドバイザー)

「質」が考慮されないのは医療も同じで、どんなに腕のあるキャリアを積んだドクターでも診療報酬は一律。確かにこれを測定することは難しいが、このような一律型にするのなら民間参入をさせなければよかっただけのこと。公的サービスとして運営すれば良かったのです。

現在の介護保険財政は、事実上単年度会計で運営されており、毎年の介護給付費を賄うのに必要な保険料しか集めていない。現在40歳からの保険料徴収ということから考えれば、その世代の介護リスクが高まる30〜50年後の保険財政を担保しなければならないはずだ。
実際、日本の公的年金は100年(私の注釈:まあ今大問題になってますが)、アメリカの高齢者向け医療保険であるメディケアは75年を収支均衡期間として、所要保険料率を算定している。

斎藤哲史氏(大和総研公共政策研究所次長)

恥ずかしながら、現在の介護保険料の設定が単年ベースから計算されているとは知りませんでした。ひどい話です。こんなのはもう「保険」ですらないじゃないですか。斎藤氏はまた、現在の介護保険制度の基本方針となっている「在宅重視」を否定し、「施設重視」を主張しておられます。

全記事を通じて思ったことは、一昨年秋のホテルコスト導入、昨年4月の介護報酬改定の流れの中での問題点は、ある意味素人である私ですら予想できたことがまさにそのまんま起こってしまっています。斎藤氏の指摘するように、「これまでの社会保障制度改革は、過去の失敗をどう繕うかに終始し、現役世代に将来像を問うことを怠ってきたため、信頼を回復させることができなかった」結果だと考えます。今夏の参議院選は年金ばかりがフォーカスされていますが、少子高齢化を前提とした社会保障システムをその場しのぎではなく本気で考えないと、制度破たんの前にサービス提供者側の破たん(労務倒産)、介護難民の爆発的発生が避けられなくなるのではないでしょうか。

私論ですが財源の問題は実はそれほど問題ではないように感じます。他の先進国と比較しても日本の社会保障費の対GDP比率は低いほうですから、まだ他に無駄がある(特殊法人特別会計、外貨準備高などなど)と思いますし、介護保険料の負担額・対象も検討に価するでしょう。また、サービス事業者の担い手として、民間を本当に活用する気なら、思い切った規制緩和をより一層進めるべきで、逆に「福祉では儲けてはいけない」という文化風土が強いのならば、完全公営化にすべきでしょう。私自身はどちらもありだと考えています。