派遣切りと定額給付金とワーク・シェアリングについての徒然草

某政治家が例の派遣村に対する疑問発言をしたことで問題になってましたが、いろいろな情報をみると、政治家の発言としての是非は別として、確かに全然関係ないホームレスやおおよそ働く気がない(もしくは自身の現状を理解していない生活状況)人がいたのは事実のようです。

バラマキや同情的施策が社会のモラル・ハザードを引き起こすことを考えれば、某政治家が指摘した問題点は確かに無視できないことではるのですが、ただいわゆる派遣社員の人にもいろいろな事情があって、好き好んでそういう立場になっているわけではない人も多いわけです。正社員として勤めていた会社が倒産し、年齢制限から派遣として働いていたような人に対して「自己責任」を押しつけるのは酷でしょう。一方で何の努力もせず惰性で正社員にならなかった(なれなかった)人もいるわけで、マスコミの報道の問題点はそういった様々な事情を一切捨象してひっくるめて「派遣社員」として垂れ流していることではないでしょうか。

しかし、どういう事情があるにせよ、雇用対策はしないとまずいのは確か。まじめに働く意思があまりない人であっても、それなりの職を提供する必要性は福祉というより治安の問題として必要なわけで、ここ数日多発しているタクシー強盗の事件をみるとその思いを強くします。アメリカでは既に失業率が7%を超え、これが16年前の水準だとか。日本も最悪期は6%近くまで(地方では6%超えているところも多かった)あり、おそらく今年はその水準を超えるでしょう。しかも前の不況期と同じ状況になるとすれば、若年層は10%を超える水準になることも想定されるわけで、デフレ・スパイラルのパターンにはまる形になるでしょう(日本はもうデフレになっていると考える識者も少なくない)。

先進国ではグリーン・ニューディール」政策と称し、環境対策ビジネスにより雇用創出しようとしています。日本はといえば政治は例の定額給付金を首相が受け取るか受け取らないかでつまらない議論でもめています(たかだか2兆円の施策ですよ?)し、財界はワーク・シェアリングの検討というどうせ本気では考えていない議論が復活しています。他の国のような将来の経済ビジョンは日本として出ておらず、個別の企業(ホンダ、日産、シャープなど)でちらほら出ている程度。正直暗い気分になります。

定額給付金については既にいろんな議論があるのでここでは詳述しませんが、なぜ定額減税復活や控除の増額ではなくてコストもかかる給付金方式(しかも前に失敗しているのに)なのかは私も疑問。やらないよりはマシなんでしょうが。いっそのこと橋下知事ではありませんが、2兆円で小学校の耐震対策の方が雇用も生むし、長期的な効用のある社会インフラなので意味もあるような気がします。

ワーク・シェアリングについては確かにオランダのような成功例もありますが、日本のように「サービス残業」が常態化している場合、時間短縮をしても誰にとってもメリットはないでしょう。加えて可処分所得は以前より少なくなりますから、税制・福祉関連の負担を政策的に下げていかないと雇用維持・経済成長を図ることは極めて困難だと思います。また経営サイドにとっては、ワークシェアリングからリターンを引き出すことまでをイメージすれば、大幅な業務プロセスのリエンジニアリング、リコンストラクションをやるコスト(短期で一時的なものなのですが)を負担する必要もあり、そう一筋縄ではいかないように思います。

ピーター・ドラッカーがかつて予見したように、いよいよ過去との連続性のない未来がはじまります。かつてのマネジメントの常識がおよそ役に立たない可能性が非常に高い。唯一言えることは、とりわけ市場戦略はまったく予測不能ながら、世界的な経済成長の鈍化と国内人口減少の中では、劇的な生産性を上げる取組み(短期)と人的資源への教育投資(長期)が必要であることだけは間違いないように思います。