海堂尊「螺鈿迷宮」は一読の価値あり

小説「チーム・バチスタの栄光」で知られる作家であり現役医師でもある海堂尊氏の3作目にあたる「螺鈿迷宮」を昨日一気に読みました。

螺鈿迷宮 上 (角川文庫)

螺鈿迷宮 上 (角川文庫)

螺鈿迷宮 下 (角川文庫)

螺鈿迷宮 下 (角川文庫)

これがもうめちゃくちゃ面白い。

私はもともとあまり小説は読まない方なのですが、「チーム・バチスタ」の面白さからこの作家にはまりました。

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)

ナイチンゲールの沈黙(上) (宝島社文庫 C か 1-3 「このミス」大賞シリーズ)

ナイチンゲールの沈黙(上) (宝島社文庫 C か 1-3 「このミス」大賞シリーズ)

現役の医師だけあって、現在の医療制度の矛盾をテーマにしながら緻密な布石とあっと驚く結末が最高。「チーム・バチスタ」は最先端医療をテーマにした大傑作、2作目「ナイチンゲールの沈黙」は小児科でちょっとストーリー設定がファンタジー過ぎてイマイチでしたが、この「螺鈿迷宮」はすごい。

バックグラウンドは医療制度改正下での終末期医療と大学病院の経営がテーマになっており、その問題点が非常にわかりやすい。加えて中間からの展開が大きく、「バチスタ」以上にサスペンスとしてドラマチック。そしてこの作家一流の伏線と結末のリンクは圧巻。そしてラストの驚き。本当に面白いです。

本作のセリフから引用。実に深い。

「碧翠院桜宮病院の骨格は美しい。終末期医療の理想です。経営的には成立しにくいけど。その基本姿勢は、法体系なんてクソ食らえ、スキあらば国からあぶく銭をむしり取り、患者によりよい医療を還元しようというもの。その徹底した悪漢ぶりは実に見事。姫宮から報告受ける度、僕は桜宮病院の論理的な合理性にうっとりしてしまった。患者にとってよい環境を作るためなら国さえも騙す。いかに効率よく国から金をかっぱぐかという観点を大黒柱に捉え、システム構築する。割り切った姿勢からは、現代医療の枠組みの中で患者主体の医療を真摯に行うと、反体制化せざるを得ないんだ、という叫びさえ聞こえてきた」

現役医師でこれだけ短期間に多くの作品が書けるということは、この人の本職は実はこれらシリーズ小説の主人公ともいえる田口医師のような愁訴外来じゃないのかと勘ぐりたくもなります。とにかく面白い一冊。キャラクター的には厚労省のロジカル・モンスター、白鳥が実に魅力的。

続く「ジェネラル・ルージュの凱旋」はシリーズ最高傑作との評判があるので、今度読もうと思いますが非常に楽しみです。

医療・福祉に携わる方は読んで損はないと思う一連のシリーズ、妙に反体制的・説教臭い部分は皆無なので、おすすめです。