花王の現状把握力 "New Moon On Monday" / DURAN DURAN

Seven & the Ragged Tiger

Seven & the Ragged Tiger

ライフケア業界の雄、花王は私が新入社員の頃から経営の優秀事例として知られていました。90年代にはセブンイレブンに代表される小売サイド側からの「流通革命」とは別個で、独自のITによる流通システムを構築しており、業績も絶好調、市場二位のライオンとは大きな差がある(そしていまだにダントツ)といった非常に評価が高い企業です。
個人的にも興味がありながら、一昨年のカネボウとの経営統合あたりからしかいろいろ勉強する機会もありませんでしたが、同社の会長である後藤卓也氏のインタビューを読む機会があったので、ご紹介します。
プロの勉強法 (PRESIDENT BOOKS)

プロの勉強法 (PRESIDENT BOOKS)

この本は、「プレジデント」誌の過去記事をまとめたもので、ソフトバンク孫正義氏、松井証券松井道夫氏、ファーストリテイリング柳井正氏、セコム・飯田亮氏など、そうそうたる経営者の勉強法が掲載されています。


さて、23期連続増益(!)・売上9368億円(04年)を誇る花王の秘密とは…。


後藤会長が語るのは、「健全なる危機意識」を持つこと。花王のような消費財ビジネスは、景気変動に左右されにくい特徴を持ちます。加えて成熟市場であるため、同社ほどの規模になると現状に満足しそうなものですが、それを徹底的に排して、先を見越して考えるのが花王式。

花王の商品で、約17年前に発売して大成功したアタックという洗剤がある。その当時、「洗剤なんかもう革新できることはないんだ」と言われていた。「消費者は満ち足りている。家族のための洗濯に、もうこれ以上のものをお客様は望んでいない」という一般的な認識があった。しかし、「そんなことはないはずだ。もっとやるべきことはなかろうか」―。
その意識が、使用量がスプーン一杯ですむという箱入りのコンパクト洗剤を生み、シェアをひっくり返すこととなった。洗剤のような日常商品でも、そのような認識があったからこそ革新的な商品が生まれたのである。

これ、さらっと語っておられるが、そう簡単なことではなかったのは容易に想像できます。成熟市場におけるイノベーションは、一人の天才によるのではなく、組織の「健全な危機意識」による生まれる―。それができない企業がほとんどだからこそ、トップ企業でい続けることは凄いことなのです。


確かに事例でいえば、成熟市場であってもヒット商品はあります。近年ブームのデザイン家具をはじめ、ビール業界の「第三のビール」、シャープの横ドラム式洗濯機(余談ですが、これは洗濯動作の負担を軽減するだけでなく、子供の手伝いを容易にしたり、洗濯機の上にモノを置けるといった副次的効果もある素晴らしい発想です)など、枚挙に暇がないのですが、要は現状維持の発想やその延長上では絶対に出ない発想ですね。


とはいえ、問題意識は必ず現状の中に隠れているからこそ(消費者自身も気づいていない)、「健全な危機意識」が必要だと。


これまた余談ながら、同社はかつてフロッピーディスクを作ってました(覚えている人いるかな?)。洗剤で用いる界面活性剤の技術が活かせるため製造していたようで、800億円・シェア10%ほど握っていたようですがあっさり撤退しました。これはいろんな意味で不思議に思っていたのですが、未知の市場(技術面以外のシナジーが少ない)であることと、下請け的で将来の展望がなかったためだそう。逆に赤字でも将来のイメージが描けていた食品は我慢を重ね、ついにあのエコナクッキングオイルやヘルシア緑茶のヒットを飛ばしました。このあたりの現状認識も鋭いものがあります。化粧品メーカーでもある同社ですが、化粧品メーカーで食品を成功させたのは結局同社だけ、でしたね。


さて、花王の今後の注目はその化粧品事業。カネボウと統合し、万年業界4位(国内メーカー)からの脱却を狙っていますが、GHCのようなコンビニ流通強者や外資メーカー、さらに最近見事なブランド統合戦略であっという間にシェアをかっさらった資生堂に与して勝てるのでしょうか? 非常に興味がありますね。