なぜ派遣切りに遭った人は介護職に就かないのか?

現在国は派遣切りによる失業問題と介護施設の人員不足問題を同時に解決しようと、派遣切りに遭った方を介護職にする施策を行っています。既に東京・大阪・名古屋で相談窓口が設置され、資格取得の補助や施設への定着化後の加算を検討していますが、なかなかうまくいかないようで。第三者的にみると、派遣切りに遭った人は「仕事なんか選んでる場合じゃないだろ」、施設は「外国人もイヤ、派遣の人もイヤ、じゃあどこから人を持ってくるの?」と言いたくなるのですが、それぞれの思いが微妙にズレており、それを修正しないことには国の施策も空ぶりそうです。
この問題をコンフリクト・マネジメントの要領で分析・解決策の検討をしてみましょう。

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これで見る限り、どうも関係者の世界観がやっかいなようです(コンフリクトが最終的に解決されないのはこの世界観の違いの原因が大部分)。また施策的にも次の二つが同時セットされない限り、そう簡単には国の思惑通りにはならないでしょう。

1.介護報酬の改定⇒人件費への反映方法の検討、および財源の確保(国)
2.就職後の教育体制システムの構築とその補助(国・介護施設

まず1.ですが、これについては既に次期制度改定での3%の介護報酬増が決定してます。事実上、小泉政権以来の社会保障費圧縮の方針が覆されたのは施設関係者にとっては喜ばしいことですが、しかし3%増には条件があり、すべての施設にというわけではありませんし、3%すべてが人件費に回るわけではありません。また06年の介護報酬までで実質3%以上のダウン幅があったことを考えると、素直に喜べるものではないでしょう。
そして一番の問題は、財源です。これについてはもう消費税アップかそれに代わる福祉目的税の導入しかありません。
2.についてですが、若年現職者の施設からの離職問題があります。その原因はもちろん賃金をはじめとする待遇の問題もあるでしょうが、それ以上に施設のマネジメントの問題があります。そもそも新人に対する教育システム(プリセプター制でもOff-JTOJTなど)がまともにないわけで、現実は最初の1、2日間に集合教育、すぐに職場配置、指導者なし、先輩はみな指導内容が違う、数ヶ月後に能力のアセスメントもせず夜勤投入…と、これで事故が起きないのは不思議なくらいですし、ほとんど放置かネグレクトかというくらいの現状が非常に多い中で、介護の心も志もへったくれもないのが若い人たちの本音。これは介護労働センターの離職理由のデータからもある程度裏付けられた事実です。よって、施設側も相当なマインドセットと教育システムの構築が求められます。
一方、「就職前の資格取得システムの構築とその補助」ですが、資格をホームヘルパー何級までか、介護福祉士までか、といった問題や、かつて自分でお金を払った人の不公平感も問題になっています。不公平感は気持ちとしてはわからないわけではないですが、本当に人材不足であるならば受け入れざるを得ないでしょう。たとえば医学部の定員増員も既に決定していますが、だからといって現役医師が「合格率の点で自分のときよりも緩い。不公平だ!」と声を上げるでしょうか?
「人材定着による加算・補助システム構築、離脱者へのペナルティ」については後者の離脱した人間(資格だけタダで取って短期間で離職)に対する何らかのペナルティは国は検討しておらず、施設への定着補助金だけになっています。そういう意味では足りないわけですが、離職理由が自己理由か施設のマネジメント上の問題かを区別することは事実上不可能ですし、自己理由にせよ離職の自由を制限することは憲法違反の惧れもあり、事実上難しいでしょう。
いずれにせよ、必要不可欠な策としては前述の1と2になるかと思います。どちらも大変ですが、実現してほしいところです。