ディズニーランドをめぐる数字の話

昨日から明日まで埼玉で仕事をしています。飛行機中で読んだ本をご紹介。

ディズニーランドをめぐる話は数多く書籍としてまとまっており、一部を除けばそれなりによくまとまっています。その中でもこの本はいかにもジャーナリストが書いたらしい数字に関する情報が多く掲載されており、これがなかなか興味深いので一部ご紹介します。データ的には2000年前後のものが中心なのでちょっと古いものですが。

年間来園者数:1730万人(4歳以上)、リピート率:97.5%
リピートの内訳:10回以上が40.7%(704万人)、30回以上も18.7%(324%)

大型テーマパークとしては97.5%というリピート率は驚異的。そもそもテーマパークは開園初年度が一番多く、その後は右肩下がりというのが普通なので、リピート率はそのまま事業継続性の確保につながる指標なのです。このリピート率は来園人数に比して少ないアトラクション数がその背景にあり、ゆえに待ち時間が増えて1日ではとても堪能できないという理由があるようです。

平均滞在時間:約8時間
平均客単価:9236円(うちチケット収入3900円)

これもすごい数字。私が昔勤務したデパートや、複合遊興施設においては滞在時間が客単価に影響します。長ければ長いほど落としていくお金が高くなります。後発のテーマパークが4〜5時間が平均だそうですから、この水準の高さはすさまじい。その要因はそもそも営業時間が長い(14時間)ことに加え、時間限定のイベントや肉体的に疲れさせない工夫(通路の素材が足に優しいものを使用するなど)など、さまざまあります。
客単価のうちチケット収入を除くと残りは飲食・おみやげ代ということになりますが、特におみやげについてはアメリカ本社もびっくりするほど日本は突出しているそうです。

物販売上:590億円(銀座の百貨店、松屋の年間売上とほぼ同額、ちなみにチケット収入は675億円)
園内のショップ数:ディズニーランド58店舗、ディズニーシー32店舗

ディズニーランドの特徴として、出入り口が1か所しかないことと、その両側にショップがあることがあげられます。これも物販売上を後押ししている要因ですが、もともとの目的は物販売上をあげるためというより、あくまで顧客の利便性と、設計コンセプトからの理由のようです。

…とまあいろいろなディズニーランドの仕掛けが、すべてそれなりに理由があり、それがまたディズニー側の都合というより顧客視点であることが、長く愛されている理由であるとわかります。既存のディズニー本が精神論的な部分が少なくないのですが、この本はそれに経営的な効果を示す数字の裏付けとリンクしているので、より納得性が高いと思います。

つまり、顧客満足とよく口ではいいますが、実はその裏側にはそれがちゃんと事業成績につながるという「計算高さ」があるのがディズニーの凄さの本質で、単に精神論的に「お客様は神様」だとかいう甘っちょろいものではないということです。

デパート業界ではアメリカのノードストロームが有名で、同店で買わなくとも返品を受けるというサービスで有名ですが、あれは一方で従業員の成績を「売上高−返品高」という指標にしていたり、トライアルで返品率が10%という数字を見て、経営的に吸収できるレベルという判断があってやっていること。つまり安易な売り込みによる顧客離反を防止するオペレーション設計、あるいは広告宣伝費的な発想としてのサービス設計という点で、「お客のために」という情緒的な判断ではなく、極めて冷静な経営判断のもとに行われていることを見逃してはいけません。
日本の企業は米国の先進事例をすぐに取り込もうとしますが、日本との文化習慣の違いのみならず、非情緒的な根拠に基づいた戦略性を理解した上でやらないとまず失敗します。コーチングしかり、SCM(サプライチェーン・マネジメント)しかり、BSC(バランス・スコア・カード)しかりですね。