介護の世界に鳴る警報ベル

介護保険サービス利用者、前年比初の減少…利用制限が一因
 
 2006年度の介護保険サービス利用者が前年度より2・3%減り、00年の制度発足後初めて減少したことが23日、厚生労働省の調査でわかった。

 同省では「制度改正により、介護度が軽い人の介護ベッド利用が制限されたことなどが原因」と見ている。

 調査によると、昨年度の介護保険サービス利用者は前年度より10万2800人少ない429万5600人。利用者数が減った要因の一つが、介護保険を使った福祉用具の貸与制限。制度改正で要介護1以下の人が原則として介護用ベッドや車いすの貸与サービスを受けられなくなった。特に介護ベッドの利用件数は前年度比で16・6%も減少した。(読売新聞

これが単純に不要な介護費用の削減なのか、「介護難民」化なのかはよく検証しないといけないと思います。それにしても本来家庭(在宅)での介護負担を減らすことが目的だったはずの介護保険が迷走しているとしかいいようがない気がします。介護保険制度を存続させたい国の意向はわからないでもないですが、制度の理想像・ヴィジョンがどんどん不明瞭になっていないでしょうか。
少し前の記事ですが、同じ読売新聞から。

福祉・介護の給与引き上げ…厚労省、人材確保へ諮問 


 厚生労働省は26日、福祉・介護分野の人材確保を図るための新たな指針をまとめた。給与水準の引き上げなど労働環境の改善が柱で、柳沢厚生労働相が同日、指針を社会保障審議会福祉部会に諮問し、了承された。

 指針では、介護保険制度の要介護認定者と要支援認定者が、2004年の約410万人から14年には最大640万人に増え、介護保険サービスの需要は一層拡大するとしている。必要な介護職員数は現在の約100万人(04年)から14年には140〜160万人になると推計している。

 一方、介護職員の給与水準(05年)は、男性の福祉施設介護員が年収315万円、女性のホームヘルパーは262万円と全労働者の平均453万円を大きく下回っており、離職率も高く、人手不足が生じていると指摘した。

 このため、人材確保のため、福祉・介護施設の経営者や国、地方自治体に対し、適切な給与水準の確保を求めた。

 また、経験に応じて職員の地位向上につながるキャリアアップの仕組みが必要とした。具体的には、現在の介護福祉士より専門的知識や経験を持つ「専門介護福祉士」(仮称)の創設などを検討する。

 このほか、

〈1〉介護福祉士の有資格者約47万人のうち、就業していない約20万人の再就業の促進
〈2〉高齢者やボランティアらが参入しやすい研修制度の整備

――なども明記した。

 介護の人手不足を外国人労働者で補うとの考えについては、日本人の雇用機会を奪ったり、賃金のさらなる低下を招く懸念などから、「慎重な対応が必要」とした。

 指針は今後、社会保障審議会で決定され厚生労働相に答申されるが、給与引き上げなどにあたっては財源の確保が焦点となる。介護報酬の見直しに伴う保険料の負担増や職員に対する事業収入の配分のあり方などが議論になりそうだ。

(2007年7月26日 読売新聞)

SNSMixiの介護関係のコミュで最近頻繁に見かけるのが待遇に対する話題。それも残業とかストレスとかいうのではなくて、単純に給与の話。平均賃金が400万円以下の介護業界では、子どもはおろか、結婚さえ出来ない。将来が見えない。という話題ばかり。そういった点で、上記のようなニュースが出るのはまあ喜ばしいことではありますが、ズレまくってるなぁと思います。

記事中「人材確保のため、福祉・介護施設の経営者や国、地方自治体に対し、適切な給与水準の確保を求めた」とありますが、現在の介護保険給付水準では無理だから今の現状があるわけです。介護のような労働集約的産業ではコスト削減の幅が極めて小さく、病院と比較しても人件費率(労働分配率)、固定費率、損益分岐点は非常に高いのです。生産性向上にも無理があります。加えて制度改正に伴う出費増という中で、経営者に一体どうしろというのでしょう。「介護報酬の見直しに伴う保険料の負担増や職員に対する事業収入の配分のあり方などが議論になりそうだ」などとマスコミも軽く書いてますが、「職員に対する事業収入の配分のあり方」なんぞ、業界を知っていればこんなことは恥ずかしくて書けないでしょう。

「経験に応じて職員の地位向上につながるキャリアアップの仕組みが必要」について、その対策として上位資格を作るというのもバカげてます。地位向上にキャリアアップと資格は関係ありません。絶対的な収入額の少なさが問題なのです。施設によってケアマネジャーや様々な専門資格を取ってもそれが職能・職務給に反映されない施設が大部分(資格取得も自己負担のところが多い。というより職能等級制度や職務分掌がない施設の方が多い)で、そのくせその資格で兼任業務をさせているのが現在の施設(そうしないとコスト的に回らない)なのです。はっきりいえば上位資格の創設は公務員の天下り先を増やすか国への収入を増やすための策じゃないかとさえ邪推したくなります。またキャリアパスは確かに必要ですが、介護の将来像・理想像が揺らいでいる中でデザインを作ったところで無意味でしょう。

介護人材不足に対する策としては「介護福祉士の有資格者約47万人のうち、就業していない約20万人の再就業の促進」「高齢者やボランティアらが参入しやすい研修制度の整備」の二つが挙げられていますが、相変わらず国はちっともわかってないですね。

まず前者ですが、有資格者が就業していないのは個人の事情か介護職が割に合わないと考えているためであって、この人たちを再就業させるのはまず無理です。賃金ベースを上げて職種として魅力を高めないとまず再就業しないでしょう。
後者は厚労省が大好きな堀田力氏の主張みたいですが、高齢者やボランティアで介護ができるなら介護職の給与水準を上げる根拠がなくなります(だから上位資格なのか?)。もちろん質的な問題もあります。加えて施設・事業者側からするとボランティアを使うのは難しい現実があるのを国はわかっていません。まず第一にボランティアを教育・管理する人材が必要です。すると現場から人を抜くことになります。そんな余裕は現場にありません(コムスンの教訓がまったく活かされていない)。夜勤の人数をローテーションでもまともに割けない、新人研修すらほとんどやらない施設もある現実を知らなすぎます。第二にボランティアが事故を起こした時の責任問題をどうするのでしょうか。またボランティア本人が事故でケガをする場合もあります。またさらに保険をかけろとでもいうのでしょうか。第三に、これが本質的な問題ですが、金を払ってない以上、あれこれ指示・命令がしにくい、悪い人材でも受け入れを拒否しにくいという問題です。マネジメント上はドライに対応すべきでしょうが、難しいのも人情というものです。ボランティアは所詮ボランティアであって、24時間365日の事業活動の中でボランティアを人員としてカウントし対応するというのは不可能ではないでしょうか。

さらに記事では「介護の人手不足を外国人労働者で補うとの考えについては、日本人の雇用機会を奪ったり、賃金のさらなる低下を招く懸念などから、「慎重な対応が必要」とした」…「足りない」現状なのに日本人の雇用機会を奪う? 同一労働同一賃金・人種で差別をしないのが外国人労働者受け入れの大前提なのに賃金のさらなる低下を招く? どういうロジックなのかもうさっぱりわかりません。

結論。介護人材の給与を上げるしかない。でないと介護保険制度は財源の前に間違いなく労務崩壊します。当然介護報酬水準を上げるために介護保険も上げないといけない。加えて細分化され過ぎた介護サービスを整理・統合する。事業者に対するさまざまな規制をさらに緩和し(特に収益事業)、民間参入障壁を下げる一方で質の悪い事業者は淘汰されるように競争原理を働かせる。利益率は上限を設定し、それを超える部分は事業に再投資させる(ここはテクニック的に相当難しいですが)。
民間化がいやならもう完全税方式で公営化。特別会計をとっとと解体するか消費税アップかですね。