松下幸之助氏のEQコーチング?

最近買った本でおもしろかったもの。

松下幸之助とEQコーチング―時代を超えて生きる「信・認・任」の知恵

松下幸之助とEQコーチング―時代を超えて生きる「信・認・任」の知恵

松下政経塾出身でもある著者らが、松下幸之助氏の発言や行動を実例としてEQコーチングを紹介した本です。正直なところ、その例は深読みというか牽強付会的な部分もありますが、単純にエピソード集として楽しめるものになっています。
私の好きなエピソードのそのいくつかをご紹介。

戦国を代表する三人の武将、織田信長豊臣秀吉徳川家康のうち、幸之助さんは誰をもっとも評価するかという話になりました。
「全体としてみると、長い安定の世を築いたという意味からは家康かもしれないな。ただ、ほととぎすの歌があるやろ」
「鳴かぬなら殺してしまえ…とい、歌のことですよね」
「そうや、信長は鳴かぬなら殺してしまえ、秀吉は鳴かせてみよう、家康は鳴くまで待とうやな。でもわしは違うんや」
「どう違うんですか?」
「わしならな、『鳴かぬなら それもまたよし ほととぎす』やな」

この本では、EQコーチングの素養でいう「楽観性」「ストレス対処」(いずれも心内知性)の表れだ、と説明していますが、この発想はコーチングというよりも単純に「環境に依存しない(責任を求めない)」商人・経営者としてのあり方の素晴らしさと捉えたほうがいいように思います。

幸之助さんが、ある関係会社の幹部と会話したときのエピソードです。
その幹部に、幸之助さんは尋ねました。
「あんたんとこ、今何人おるんかな?」「はい、五〇〇〇人でございます」
と、幹部は答えました。
「それはなかなか大変な人数やな。いろいろ苦労が多いやろうが、わしはこう思うんや。人というのはな、事業規模が一〇〇人程度やったら、社長が率先垂範、先頭に立って命令したら動いてくれるもんや。ところが一〇〇〇人から二〇〇〇人の規模になったら、同じ命令をするにしても、単なる命令ではなくて、どうぞやってくださいという心を添えることが大事やな」
幸之助さんは、さらに続けました。
「もっと規模が大きくなって五〇〇〇人から一万人になると、今度は『頼みます』という心根が必要になってくる。さらに一万人から五万人というような大きな集団になれば、『拝む』心が必要や。頼みますよ、お願いしますよという『祈る』気持ちや。そういう気持ちで経営したら、たいていは立派に統制がとれて、全体が生き生きとして動き進んでいくものやで」

この話での規模(社員の人数)は額面どおりにとらえると勘違いしそうな気もします。公式組織論では「コミュニケーションの行き届く範囲が組織の規模を決める」とされるように、社員数が少なかろうと、自分のコミュニケーション能力が弱ければ、『祈る』心根は早めに必要となってくるのではないでしょうか。
いずれにせよ、「会社は人」と上っ面で言う人が多い中、本当に『頼み』『拝み』『祈る』経営者なり管理職はどれくらいいることでしょう。
松下の経営は『王道』とよく言われます。その王道は、幸之助さんのEQに支えられていた面は大きかったのは間違いないでしょう。ただし経営はEQだけではできませんから、そこのところもお間違いなく。何しろリーダーシップの面から考えると、リーダーシップ・スタイルはEQとIQの両方によって支えられているわけですから。