企業をめぐる数字のアレコレ

以下は某企業様の受講者の方のための記事です。

先週土曜日の研修はお疲れ様でした。普段数字に触れることのない方にとっては難しい内容だったかもしれませんが、財務諸表の見方をはじめ、経営分析は重要なマネジメント・スキルですので、事あるごとに実践してみてください。


-キャッシュフローなんぞがなぜ重要なのか
減価償却費は損益計算書上では「引き算」され、キャッシュフロー計算書上では「足し算」される…ややこしいですよね。講義の中でも質問が上がってましたが、なんでかつては義務ではなかったキャッシュフロー計算書が作られるようになったのかをちょっと振り返ってみます。


日本経済がグローバル化していく中で、海外の株主が増えてきました。しかし、財務諸表上のデータからは「優良企業」としかいえない会社が、次の年には業績が急降下したり、最悪の場合にはつぶれたりといったことが結構ありました。これはその会社が粉飾していたわけではなく、日本の会計制度上の問題があることがクローズアップされたのです。つまり株主にとってみれば、極めて不明瞭で数字が信頼ならんと。投資しようにも判断できん!というわけです。
たとえば、貸借対照表流動資産には、商品在庫や売掛金などがあります。しかしその内訳がよくわかりません。時代遅れの持ち越し商品在庫や、回収不能売掛金が含まれていることがあるためです。固定資産では土地や投資有価証券などがありますが、これはその資産を取得したときの価格(取得原価)だったため、価値が落ちていても(逆に含み益があっても)それが貸借対照表上で反映されないといった問題点があったのです。
要は、日本の会計制度は「発生主義」であるため、資産価値や資金繰りの点でタイムラグがあるにもかかわらず、それがブラックボックスになっていたと。
それで、時価会計やら退職給付債務やら税効果会計やら連結決算といった一連の会計ビッグバンが行われたわけです。キャッシュフローもその一つ。「実際のキャッシュの動きを見る」ことによって、経営の実態をオープンにしていくようになったのです。


キャッシュフローの計算では、あくまで実際のキャッシュの動きに着目しますので、資産価値の目減り分を経費計上していく「減価償却費」や、売掛債権の回収不能分をあらかじめ経費として見積もっておく「貸倒引当金」など(負債性引当金といいます)、実際にはキャッシュが動いていないものを足すわけです(もちろん「買掛金」など逆に引くものもあります)。
余談ですが、減価償却費の計上の仕方には「定率法」(償却期間内で一定のパーセントで償却していく)と「定額法」(償却期間内で一定額を償却していく)やり方があり、定率法の場合には年を経るにつれて金額が減っていきます。これを利用して、ある鉄鋼会社が税負担や財務諸表上の見栄えを考慮して、コロコロこの二つの償却方法を変えていったなんてこともかつてありました(現在は安易な減価償却方法の変更は認められない)。


-優良企業とは?
財務諸表上の優良企業とは大体以下のようなポイントがあります。

 1.増収増益(この場合の「益」とは一般に経常利益)
 2.流動比率当座比率などの支払安全性が高く、固定資産は低コストの長期借入金や自己資本でまかなっている
 3.自己資本比率が高い
 4.ROE・ROIなどの指標が高く、総合的な経営力がうかがえる

などでしょうか。
このうち、注意すべきは2.と3.です。支払能力が高いのはいいのですが、流動資産中に現預金が多すぎると、本来金利がかかる現預金を積極活用していないということで株主から批判が出ます(次の事業活動に投資するか、配当金を増やせ!となる)。また上場企業で、株価が割安な場合は、少ない投資資金で莫大な資産を手に入れることができることになり、敵対的買収の対象になりやすくなります。村上ファンドなどはこういう企業を狙って投資(というより投機)していったのです。
自己資本比率については、確かに一般的に高いほうがいいのでしょうが、これは配当金(配当性向)との兼ね合いによります。自己資本(純資産)は、返済の必要がない点で低コストな資金調達方法ですが、配当金額が大きくなりすぎると、銀行などの借り入れによる負債の方が低コストになる可能性もあるのです。そこで財務の理論では「資金コスト」という考え方が出てきて、最適な資本構成はどんなものなのか、なんていう話が出てくるのです。
ということで、「単に売上・利益増で、借金に依存しない経営が良い」とは簡単にいえず、やはり実数・比率・推移を見ていくことが経営分析では重要だということがわかります。


-会社の数字を勉強するには
今回のように自社の数字を自分で分析していくのがベストですが、会計理論や用語でとまどうことが多いと思いますので、入門書を買ってみるのは良いでしょう。最近のベストセラーはコレ↓ですが、これは確かにわかりやすく書かれていて、ド素人と自認する方は一読をおすすめします。

さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学 (光文社新書)

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なお、より本質的な数字に対するセンスを磨くには、日経新聞の購読+簿記を勉強することをおすすめします。簿記は3級レベルで十分です。複式簿記の理屈が分かれば、各財務諸表間の関係がクリアになるでしょう。