日本のTOBはまだまだ途上なのかなぁ。

最近新聞をにぎわしているのは、王子製紙vs北越製紙、AOKIvsフタタ(+コナカ)の業界再編を伴うTOB(公開買い付け制度)ですね。この2つの動きはいろいろ考えさせられたので、メモ的に感想をならべてみます。


まず、製紙業界。国内トップの王子製紙が、世界市場での生き残りをかけて、北越製紙を…ということだったんでしょうが、これ結構ムリのある話だなぁと最初から思ってました。
通常、トップ企業がM&Aを仕掛ける場合、シェアアップを目的とする場合が一般的なように思います。ところが北越製紙。ここはすごい会社で、利益率も業界トップクラス、設備は最新、製品は高品質の独自性の高いものに特化と、ニッチの最たる企業。
ニッチはシェアアップを目的としませんから、このM&Aではほとんど同社にメリットがない。またシェアもそもそも大きくないので王子としてもその部分ではあまり意味がない。北越の技術力が欲しいにしても、TOBというのはちょっと唐突すぎますし、先に述べたようにこのM&Aの意図が戦略上よくわからんのですよ。たとえは違うかもしれませんが、セブンイレブンが、地場の地域密着型の生鮮食品店(しかも3ちゃん経営)を買収しようとするようなもののような…。
ちなみに株主構成からいってもこのTOBは苦戦することが目に見えていました。加えて日本製紙が王子の独走をストップさせるために北越株を買い集めるという想定外の動きもあって…。
ここからの注目は、北越日本製紙をどうカードとして「使う」かが見物。


もっとわからんのは紳士服業界。これは買収を仕掛けたAOKIというより、結果的にコナカ傘下を選んだフタタ。
どう考えてもAOKIの提案の方が理にかなってますし、有利だったのに…。

AOKI…TOBにより統合へ。不採算店を整理し、利益を上げる
コナカ…株式交換により統合へ。新店舗出店・商品開発強化により収益を上げる


そりゃフタタにしてみれば、不採算店整理のような後ろ向きな話より景気のいいコナカに乗りたいところでしょうし、これまでコナカとは事業提携してきたわけだから「情」において気持ちはわかるのですが…。
まず、TOB株式交換では、株価次第とはいえ、TOBの方がキャッシュは入るし、資産低減リスクは少ない。
次に紳士服業界は既にオーバーストア気味で、寡占化に向かうのは目に見えている。
さらにコナカとのこれまでの提携でフタタは業績回復できなかった。
そして、AOKIはコナカよりも事業規模・財務状態とも上である。
以上、簡単に素人目で要素を列挙しても、フタタがコナカを選ぶ根拠がわからない。フタタの株主は絶対文句言うべきだと思いますけどね。


株主視点だけでTOBなどの一連の現象を判断するのは私は嫌いだけれども、株主視点で見ると現象の是非点はクリアにはなります。今回のこの2つのTOBについて、ちょっと良かったなと思える点は、村上ファンドなどのような不透明なプロセスがない点です。ただ、フタタではありませんが、どんなにプロセスがクリアでも経営陣の判断は不合理なこともあるわけで。
ちなみにフタタの「日本的決着」についての分析は、こちらのブログがきれいにまとめてくださっています。http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060818/1156024979